もろとも(西田東)/新書館・ディアプラスコミックス


外資系の企業マンとしてバリバリならしていた勝だが、亡父の会社の経営難から専務として重責を負うことに。社会的な体面にこだわる彼にとって、天真爛漫で自由奔放な異母弟の幸男は悩みの種であり、癒される存在でもあった。見合い結婚した妻との仲もぎくしゃくして、勝は幸男のことが気になってたまらなくなるのだが…。(J)


じゃあな

 緩急のバランスが絶妙。かなり暗い要素を含んだ作品でも、どん底まで沈むと登場人物たちが土壇場の逆ギレを見せて蘇ってくるのが頼もしい。重いテーマでも娯楽として楽しめるのは、作品の根底に何かカラッとした「それでも人生は楽しいものだ」というたくましいお気楽さが流れているからだろう。
 勝は優れたビジネスマンである一方で、恋愛にも愛情にも不器用で軟弱な男。仕事の逆境には凛々しく立ち向かうが、幸男に思いをぶつけられると逃げ出してしまう。ハタから見てる分には愛すべき人物だが、当事者にしてみればたまったものではないだろう。でもそんなダメな勝さえも、作品に流れるゆったりした空気が包み込んでくれる。
 脱力ギャグも相変わらず健在、絶好調。勝の母の「ハゲ山さん」に三分くらい笑ってしまい、「私、娯楽少ないのかしら…」と自分自身に不安を覚えた。「仁義ナシ!」でヤクザの関口が落ちた穴の看板「2メートルチョイの深さだけど気をつけて下さいネ!」の投げやりさにも笑った。こんな看板あるわけねーだろ! ていうかこの穴、何の為に存在してたんだよ!
 「聖なる男」で、タカが料理しているものが、卵なのかハムなのか他の何かなのかそれさえもわからなかった。でもいいさ。西田東の実力はそんなところでははかれないさ。作者のあとがき漫画がなかった事だけが唯一の不満。

★★★★


犬とおまわりさん(霧島珠樹)/コアマガジン・drapコミックス


ご近所でも「王子!」と人気のイケメンおまわりさん・深美(よしみ)は、大の愛犬家。ノラ犬みたいでなんだか気がかりな美少年・叶の事をかねてから気にしており、ひょんな事で知り合ってから二人は互いを意識するように。二人の進展にハラハラのブラコン刑事・衛の追う麻薬事件が、やがて平和な町にも影を落として…。(J)


じゃあな

 叶の方に何の描写もないまま、いきなりルックスと雰囲気だけで深美がメロメロになってしまうので、なんだそりゃと飛躍についていきがたい。序盤から、弟にも同僚にも町の奥さんにもモテモテなのは深美の方なのだが…その上深美が攻なのか…。
 深美の愛犬「えい吉ちゃん」は非常にかわいく、作者コメントで「犬を飼った事がない」とあったので「ふっ、そんなあなたに犬の何がわかるのかしらね」と勝手に勝ち誇った気持ちでいたが、非常にリアリティのある愛犬生活ぶりだった。そう、犬は登るわ…飼い主の体に登るのよ…。
 衛と広大はルックスも似ている上に、最初は二人とも深美のファンとして出て来てキャラがかぶっている感じがするので、深美×叶カップルに釈然としないから…とそちらに逃げ場を求めても、こちらもなんだか釈然としないのだった。萌えそこねたから八つ当たりするわけではないが、全員にょろにょろと髪が長くてキャラクターデザインにメリハリがないのが残念なところ。こんなに制帽の似合わない巡査もどうなのかと思う。

★★☆



こいつが18なら俺40(オオヒラヨウ)/DREAM MAKER バジルコミックス


高校生の拓也は叔父の丈弘の家に入り浸り。18歳の誕生日を目前に、何だか浮かれていると思ったら、ある夜眠っている丈弘にキスをしてきて…! 専務の娘と見合いを決意した丈弘だが、それを知った拓也は「もう我慢しない!」と激昂して…。(J)


じゃあな

 ホモミシュランをやっていると、普段意識しない発行元やレーベルを再発見するなあ…なんだバジルコミックスって。エロゲーの製作会社は野菜の名前が多いというが、ボーイズラブレーベルの場合何か法則性はあるのだろうか。食べ物と鉱物が多いかな。
 まあそれはさておき本作。可愛らしい絵柄と、あまりヒネリのない表紙の構図からお察しの通り、全編可愛らしく、ちょっとありがちなラブコメ。テンポがいいので読みやすいが、読み終わると内容はほとんど忘れてしまう。もっと突き抜けたキャラクターがいた方がパンチがあっていいのかも。
 そういう意味では、性格の歪んだ優等生の攻が受に執着する「SとMの事情」路線が有望か。

★★☆



窮鼠はチーズの夢を見る(水城せとな)/小学館・Judy comics


優柔不断で、誘われたら断れず不倫を繰り返してきた恭一。彼の妻の依頼で現れた調査員は、大学時代の後輩・今ヶ瀬だった。今ヶ瀬は妻に事実をばらされたくなかったら「体とひきかえ」と、とんでもない要求をつきつけてきて…。(J)


じゃあな

 掲示板で大絶賛だった本作。なんと小学館のレディコミレーベルからの発売である。見返しの著者コメントによれば「水城さんはチョットいい話とか描かなくていいから。他の引き出しあるでしょ、ゲイとかSMとか」という編集長の一言から生まれた作品だとか。編集長、グッジョブというべきか、一般誌でけなげに頑張っている作家になんて事をというべきか。
 しかし、読者にやおい免疫まるでなしの奥様方をも想定しているせいか、これが新鮮で面白い。まず、攻はもちろんの事、受が「性別・受」という特殊な生命体ではなく、れっきとした男である。もちろん、男同士の結婚ぐらい朝飯前の妄想都市・ジパングではなく、現代日本の倫理観を基盤にしているから、関係を持ったからって「ハイ、一生幸せに暮らしましょう」では終わらない。二転三転、七転八倒してくれる。
 そして「男同士なんてキモい!」と言わせないために、攻の今ヶ瀬はちょっと中性的でキレイな感じ。でも攻める時はバッチリ男。二人が着衣で横たわっていても、その下に男性の体を感じさせる描き方をしてくれるから、見ているだけでなかなか楽しい。そうそう、スーツってこの背中がいいのよね、とウキウキしてしまう。
 ホモって何で楽しいの? それはね、いい男を見ていると楽しいでしょう? それが二人になるともっと楽しいのよ、という根元的な楽しみ方を思い出させてくれた一冊。こういうスタンダードが出て来てしまうと、ロリ受やギャル受など、なにほどのものかという気する。
 一般の女性読者の目をきちんと意識しているせいか(著者の漫画は大体そうだが)、女性キャラも丁寧に描かれている。それぞれに非があるが、それぞれに分がある。描きおろしの短編も可愛くていいね。
 同性愛を描くにあたって、もっとも必要なのは、ノーマルとアブノーマル、常識とタブーのさじ加減という気がする。

★★★★☆


ステキな毛皮がなくっても(果桃なばこ)/徳間書店・キャラコミックス


多額の金を貸した友人が蒸発。天涯孤独の大学生・小太郎は学費にも事欠いて高額のバイトに飛びつく。それはデリヘル! 出張で体を売ることも高額の報酬の為ならやむなしと勢い込んだ小太郎だが、初仕事の相手はなんと男。セレブだが変人の浅倉社長は、小道具の中にあったネコミミを気に入って、小太郎をネコとして飼い慣らすことに…。(J)


じゃあな

 最近やたらと多い「身売り」モノ。あんまり人を人とも思わない設定のものはげんなりするが、軽いタッチでテンポ良く描かれているのでサクサク読める。
 猫のコタローが可愛かったな、とか、店長のキャラに勢いがあって良かったね、とか、どうでもいい感想だけが浮かんでは消える。読んでも読まなくてもどうでもいい。それは読んでも読み終わったらすぐに忘れてしまうから…。一冊読み通しても何ひとつ身につかないところは、倒してもろくな経験値を貰えないスライムにも似ている。まあ、私の様に果桃なばこの描くトンチキ社長がだーい好き、という人以外には、さしてオススメはしません。
 南の島でも休日でもいつでもワイシャツ着用オールバックの社長達。最近ネクタイはしなくなった。クールビズなのかも知れない。

★★☆


熱伝導(明治カナ子)/芳文社・花音コミックス


不倫ばかりして長続きしない馬尾。彼の失恋譚は学生寮では格好の酒の肴だ。本当の気持ちを隠して、偽りの恋ばかりに飛びつく馬尾の所業が、先輩の木戸には心配であり、苛立ちのタネでもあって…。(J)


じゃあな

 「受の名前がウマオって」と、思わずにはいられない。ハードな作品ばかり書いてきた明治カナ子が、こんなに可愛い恋愛を描くことに対する、ささやかな抵抗みたいなものなんだろうか。
 掲載紙が花音だから縛りやボディピアスはないだろうが、でもきっと精神的に辛くて痛い恋モヨウなんだろうな、もしかしたら馬尾はドロドロの肉体派ゲイで、先輩が受かも知れないな…とおっかなびっくり読んだのだが、馬尾のいじらしい恋心が少しずつ少しずつ先輩の心を動かしていく、夢の様なラブストーリーだった。
 舞台も小道具も起きる事件も、リアルでささやかなものばかりなのだが、現実的であればあるだけ、そうそう、こんな事、あるある、と馬尾の気持ちに同調してしまう。そうそう、こんな事、あるある。でもこんなに不器用で純粋な思いがうまく通じる事は、滅多にないない。
 溢れるほどの熱が、枯れた雰囲気の画面の下にこもっている。噴火するかと思ったが、しないまま終わった。これを奇跡と喜ぶか、物足りないと思うか、読み手の評価の分かれるところだろう。作者の味だけで読ませた一冊。

★★★


マニアック★SHORTS-SHOT(逢坂みや)/秋水社・アクションコミックス


要領がいいわけではないけれど、根っからマメで親切な広瀬は中学の時からボランティアキャラ。同窓会でもせっせと働く彼の前に現れたのは、中学時代コワモテでならしていた東。ヤクザさながらの風貌に成長した東に広瀬はひきつるが、東は「広瀬のツラが見たかった」と意外な言葉を残して去っていって…。(J)


じゃあな

 新刊ラッシュが続く逢坂みやだが、これはアクションコミックスのボーイズラブレーベルからの発行である。逢坂みやとアクション…異常に似合う取り合わせである。国友やすゆき、谷口ジロー、逢坂みや、と続いても、何だか違和感が無いような気がしてコワイ。
 で、表題作は、逢坂みやらしい、珍芸に富んだエロ短編。併録のバイク店を舞台にした「カスタムハートビート」は、「逢坂みやで車がモチーフになっている作品は大抵ヤバい」の法則通りの作風。最後に載っている「Hair」は、コミックスの読後感を悪くするのにびったりの狂気っぷりで、なんかもうイタキングの十八番を詰め込んでみました! ベストヒット! みたいな一冊だったが、あらすじに書いた「ローファイな君・ハイファイな彼」はイタキングには珍しい、可愛いお話だった。
 特に受の広瀬が本当にいい子で、優しいのに弱々しくない、リアルに「こんな人いいよね、友達になりたいよね」って感じで好感度キャラ。凄いよ! イタキングのキャラで友達になりたいだなんて! 大抵は半径500m近寄りたくない感じなのに!! ラストはカユいが…いい子達なので、頑張って微笑んで見守りたい。

★★


ボストン探偵物語(遠野春日)/講談社X文庫・ホワイトハート


ルームメイトの峰雪がいなくなり、黒服の男達が押しかけてきた…?! 思いも寄らぬトラブル、留学生の寿順は同じ日本人というのを頼りに「黒葛原(つづはら)探偵事務所」の門を叩く。所長の黒葛原は三つ揃いのスーツを着た紳士。そして助手は女と見まごうばかりのクールな金髪美人。学友と旅行に出たきり連絡の途絶えた峰雪は、一体何に巻き込まれてしまったのか…?(J)


じゃあな

 すみません表紙買いしました。遠野春日は、私とは合わないところがあって敬遠していたのだが、これだけ受と攻がタイプなら、もう何だって目を瞑る! と思って飛びつきました。結果は…うんまあやっぱり…合わない人とは合わないのかも知れないな、って…うん…。全然ダメならともかく、なまじ惜しいから諦めきれないものがあるなあ…。
 私が、遠野作品で苦手なポイントは、まず、ホモが次から次へと出てくるところで、私はホモは一作に一組くらいであって欲しいのだが、遠野作品の場合、主要な登場人物はみんなホモである。これをやる場合、芹生ワールドぐらいブッ飛んでいてくれれば、もうそういう異世界かと思って諦めるのだが、比較的設定もキャラも大人しいのに何故かみんなホモなので「こんなわけあるかーい」とハリセンを振り回したくなるのだ。ちょうど、ファンタジーでどんなに美形キャラが続出しても気にならないが、ただの高校の生徒会が全員、神々しいばかりの美形だと「そんなわけあるかーい」と言いたくなるようなものだろうか。
 そしてなまじ筆力があるので、盛り上げるところは結構盛り上げてくれるのだが、「事件」そのものに説得力がなかったりする。今回で言えば峰雪とアニーの逃避行などは結構ドキドキして面白かったのだが、黒葛原らが事件にそこまで踏み込む動機が弱い(ただ黒葛原が親切だというだけだ)。 まさかそんな事ぐらいでここまで大騒ぎになるわけがない、アニーには絶対にそれ以外に追われる理由があると思って期待していたのだが…ええーっ、ソレダケデスカ。しかもソンナオチデスカっ。ラストの拍子抜けっぷりには誰もが言葉を失うだろう。
 喩えるならば、「地球が滅亡する」という事件にあたって、それを守るために少年少女が立ち上がる。少年少女が選ばれた理由はまったく不明! でも命をかけて戦います! 物凄い活躍! 手に汗握る展開! 最後に地球は救われたが、悪の帝国が滅ぼしに来た理由は「誰かに振り向いて欲しかったから。だって寂しかったんモン」みたいな…。
 実はボーイズラブ界には、似たような話の作り方をする人がいる。志水ゆきである。ドラマ部分は大いに盛り上がるのだが、そこに至るまでの必然性がガタガタ。ただしあちらは最近、設定そのものを突飛にする事によって、全体のテンションを底上げし、途中の盛り上がりとの折り合いをつけた。遠野春日も、このスタートダッシュをかけるブースターの弱さとラストのしょんぼりさの帳尻を合わせる為に、もっと異世界、特殊な設定に挑戦することをおすすめする。それこそボストン探偵事務所は19世紀のボストンで良かったと思う。

★★☆


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